タリキホンガンジ

なにするかわからねーやつ

Mr.

 僕の街の海に「Mr.」と呼ばれる怪獣が住んでいた。

 Mr.はタコの様な風貌をしていて少し、宙にフワフワと浮いている。そして、タコの足の様な象の鼻の様な長い鼻を7本持っており、食事はいつも鼻から吸い込んで摂っていた。いつも食べる物は気まぐれで日によって変わる。水だったり、果物だったり。

 ただMr.は全長が25mとやはり怪獣と呼ばれるだけあって大きく、鼻の穴もちょっとしたトンネルぐらいのサイズなので、たまに間違えて近くにいた人間や動物を吸引してしまうことがある。

 もちろんMr.と呼ばれるだけあって彼は紳士で良い奴なので、人間や動物は消化する前にくしゃみをして吐き出してくれる。

 またMr.はそこらの怪獣と違って意思疎通ができる怪獣で近くに行って話しかけたらテレパシーで僕らの頭の中に話しかけてくるのだ。話し方は感情がないロボットのような素っ気ない物だが、話しかけたら一言三言は返してくれるので「丁寧な奴だ」と皆に褒められている。

 ちなみにMr.という名称だが、その名が付けられた理由がある。

 ある日、海難事故に遭って海で溺れかけていた人たちを救うために、溺れかけていた人たちが海底に足を付けるようになるまで海水を吸い込んで、見事に救ったのだ。

 実は僕もその一件で救われた一人だ。

 その後、彼は全員救助されたのを待った後、海水を吐き出して元の環境に戻した。

 実はこの時、海の生物も一時的に自分の長くて太い鼻の中に避難させており、ほとんどの生物を傷つけずに元の環境に戻してあげたことが、後々判明し「彼はなんて良い奴なんだ」「いや、紳士に相応しい」などと街の人間が更に彼を賞賛し始め、最初は「タコさん」やら「象蛸さん」などと呼ばれていた彼は街の人から敬愛を込めて「Mr.」などと呼ばれる様になった。

 

 しかし、ある日海からMr.がこつ然と姿を消した。

 街の人々は「僕らに愛想を尽かしたのではないか」「話し返すのが面倒になったのではないか」などとネガティブな予想を立てていたが、Mr.は突然何かを始める、気まぐれな性格でもあったので「いつか帰ってくるだろう」と皆、結局は能天気に彼の帰還を待っていた。

 だが、待てども待てども、彼は帰ってこなかった。一年が経ち、二年が経ち、あっという間に五年の月日が流れた。

 しばらくすると人間の気持ちは変わるもので「Mr.は都市伝説だった」などと流布する奴が現れたり

「実は風貌が気持ち悪いと思っていたのでせいせいした」

「彼のテレパシーは脳に悪影響だった可能性がある」

 などと彼そのものを否定する様なそんな風潮にさえなろうとしていた。

 

 そして、それから更に五年が経った頃、彼は僕らの海の一番深い海底で、動かなくなっている姿で発見される。

 Mr.は海底にうずくまるような形で全長は50mほどに肥大化して動かなくなっており、専門家などはこぞって彼の回収に務めようとしたが、彼が動かなくなっても鼻から海水を吸引していたやため、回収は難航。結局、数年越しで彼を海底から地上に引っ張りだすことに成功する。

 地上に上がった瞬間にMr.は吸引が止まって、完全に停止した状態になると、街の人は彼を見世物にして街の名物として売り出そうなどと謳いだし、実際、彼は数年間、浜辺に放置され、それが街の名物スポットになった。

 

 だが人々は忘れている、なぜMr.が動かなくなった後も海水の吸引をしていたのか、海の底で彼が何をしていたのか、なぜ肥大化していたのか。

 

 その後、街を襲うように海の水位が上がり始めた。その勢いは凄まじく、街全体が水の中に沈むまでそう長い時間はかからなかった。

 水位が上がったのは温暖化の影響があるなどとニュースでは見たが、温暖化であそこまで急に水位が上がるとは思えない。だが、今まで水位が上がらなかったのは、何故か?

 今の僕らにはなんとなくわかる。

 

 当たり前のことだ。Mr.は紳士で良い奴なのだから、あの街が大好きな気まぐれ者の怪獣。

 街を救うために一肌脱いでもおかしくない。

 それほどにMr.は僕らのことが好きだったのかも知れない。好きでいてくれたのかもしれない。

 

 そんなMr.は今も静かに街とともに眠っている……。