怪物の様に生きたいロボット

詩や短編小説、そして何かの置き場。

少女と怪物〜雨の理由〜

「願いは聞き届けた、これからお前を食べてやろう」

 身長3メートル。牙と口は大きく、爪も眼光も鋭い怪物はかわいらしい少女に向かってそう言った。

「だめ、全然なってない!私を食べようという気が微塵も感じられないわ!」

 少女は見た目とは裏腹に強い口調で怪物を叱ってみせる。

「そうですか……」

 怪物は見た目とは裏腹に弱気な態度で少女に頭を下げた。

「そうよ、はい次」

「はい……さあ!これからお前を食べてやろう!」

「声が大きくなっただけ。はあ、これで村が本当に救われるのかしら……?」

「す、救われますよ!オレの一族が女の子を食べたら雨が降ったんですから……」

 怪物は震える声で、“絶対”という自信に満ちた言葉を使った。

「……そもそも、本当にあなたもその能力を受け継いでるわけ?」

「それは未知数ですが……オレのじい様が前に女の子を食べた際には雨が降ったと父様が……」

 少女はその言葉を聞いて大きなため息をついた。

「こいつに喰われて雨が降らなかったら無駄死にじゃない……ご先祖様になんて言い訳すれば良いのよ……」

「オレも雨が降らなかったらご先祖様と村人に顔向けできませんよ……」

「その無駄に恐ろしい顔で私の村の人たちの前にノコノコ出て行ったら、みんな驚いてきっとそれだけで心臓が止まってしまうでしょうね……ってこんな雑談してる暇ないでしょ!!」

「はいっ!」

 怪物は少女の急なノリツッコミのような何かに体を直立させて反応した。

「そもそも、あんたが私をなかなか、ぱくっと食べてくれないからこんなお遊戯をしてるんでしょ!」

「はい……」

 少女の言う通りであった、怪物は少女の願いを聞き入れるまでは威厳を保っていたのだが、いざ少女を食べようとすると……いや、食べようとさえできずに今、この体たらくが晒されている。

「でも、怖いですよ!あなたを食べると絶対口の中とか外とかで血とか飛び散るじゃないですか!おいしいかどうかもわからないのになんでそんな怖い想いをしないといけないんですか!!」

 いきなりの怪物の逆切れとその内容に少女は呆れて口をつぐんだ。そしてしばらくの間を置いて純粋な疑問を口にすることにした。

「……あんた、今まで一体何を食べてきたのよ……」

「え?それはもう、どんぐりとか、まつぼっくりとか……」

「ぷっ何それ!子どもの遊びじゃない!拾って食べてる姿を想像したらなんか妙に愛くるしくなってきたわ!アハハハハ!!」

 少女は怪物の予想外の返答に爆笑してしまった。怪物もつられてぎこちない笑顔を見せた。

「しかし、人の笑顔を見るのは初めてですから、何か変な気持ちです……皆オレの姿をみたら恐い顔して逃げていきますし……」

「ハハ、それはそうでしょう、あなた恐いもの。でも恐いのはやっぱり外見だけね」

「いじわるは言わないでください……」

「いえ、褒めてるのよ。あなたは優しい。だからこそ、私の願いを聞き届けてくれる。そう信じて私はあなたに食べられるの、そう決心することにしたわ」

「……」

 怪物はその言葉を聞いて思わず黙ってしまった。少女は完全に覚悟を決めている訳ではなかったのだ。自分の死を受け入れるという残酷な運命に対して。

「あえて、もう一度言うわ。私の村は今、干魃で水もまともに飲めない状況にあるの、だからこそ生け贄を捧げれば雨を降らしてくれるというあなたの下まで来たの」

 怪物は少女をもう一度良く見た。きりりとした顔や声色とは裏腹に、手足は小刻みに振るえており、今にも倒れ込みそうであった。

「……今、あなたは覚悟したのですね、死を」

「最初から覚悟はしてた……つもりだったけどね。やっぱり、本当に食べてくれそうな雰囲気が出てるあなたを目にしたらつい、ね……恐くてね……」

 少女の張り詰めていた声はついに崩れだし、目にもハッキリと涙が浮かんできた。

「だからお願い、早く食べて……私が私である内に、食べて欲しい。皆のために立派に死にたいの……」

 怪物は神妙な顔でその言葉を飲み込み、少し考えた後、すっと息を吐いて言葉を発した。

 

「願いは聞き届けます。これからあなたを食べてあげましょう」

 

「……迫力のない言葉……全然なってない……けど」

 

「ありがとう」

 

少女の瞳から涙が落ちた瞬間、怪物は少女を包み込み、鮮血に染まった。

 

その日から空は曇り、連日大量の雨が溢れ出し、村は干魃から救われることになる。

その大粒の雨はまるで怪物が流した涙の様に見えたが、その涙の理由を知る人はもういない。

 

 

〜あとがき〜

 

いつも通りライブ感で書きました。物語がストレートに伝わってくれればいいかなと思います。